2023年9月1日に発売されたソニーのワイヤレスイヤホン「WF-1000XM5」。
約2年ぶりの新作を筆者も入手し、約一週間じっくりと使用した。
本記事では、Apple「AirPods Pro(第2世代)」との比較形式で、「WF-1000XM5」の音質やノイキャン、総合的な使い勝手を徹底レビューする。
WF-1000XM5を購入!
※比較レビュー部分(本編)にこちらから直接飛べます。
定価は税込41,800円、記事執筆時点ではAmazonにて9%オフの税込38,000円となっている。
パッケージは、環境に配慮した簡素な紙製。
付属品
本体と充電ケーブル、4種類のイヤーピース(SS,S,M,L)、説明書類が同梱されている。
外観・デザイン
ケースの大きさはAirPods Pro(第2世代)と同程度だが、少し厚みがある。
本体のデザインは丸形で艶のある素材。操作部分はマットな質感になっている。
WF-1000XM5は、前作に比べ小型軽量化が図られているそうだ。
スペック
「WF-1000XM5」と「AirPods Pro」のスペックは以下の通りだ。
WF-1000XM5 | AirPods Pro(第2世代) | |
---|---|---|
ドライバー | 8.4mm | 11mm |
コーデック | SBC,AAC,LDAC,LC3 | SBC,AAC |
処理チップ | V2+QN2e | H2 |
バッテリー | 本体8時間+ケース16時間 | 本体5時間+ケース19時間 |
充電 | USB-C,Qiワイヤレス | Lightning,Qiワイヤレス, Magsafe,Apple Watch充電器 |
本体重量 | 5.9グラム×2 | 5.3グラム×2 |
ケース重量 | 50.8グラム | 50.8グラム |
防水 | IPX4 | IPX4 |
通常価格 | 41,800円 | 37,400円 |
WF-1000XM5は、高音質コーデック「LDAC」や、最新の「LC3」にも対応することが特徴だ。
「WF-1000XM5」vs「AirPods Pro(第2世代)」徹底比較!
「WF-1000XM5」と「AirPods Pro(第2世代)」を実際に使用した感想を基に、各観点から比較する。
音質
WF-1000XM5の音は、全体的に厚みがあり、アピールが強い。印象的な低音強調に加え、高音のボーカルも“ガツンと耳に刺さる”イメージだ。それでいて、音が潰れることも無く、ボリュームを上げれば上げるほど、細かい部分の表現までしっかりと伝わった。まさに「解像感の高さ」を感じた瞬間だ。
ただ、それゆえ短時間で聞き疲れする、という特徴もある。実際、1時間程度の連続使用で疲れを感じた。「強烈なボーカルが聞きづらい」と思う方も居るかもしれない。
対するAirPods Pro(第2世代)は、フラットな音が特徴で、インパクトに欠ける。どんな音も柔らかく伝わるため、ラジオや解説系動画の“ながら聴き”に向いているだろう。
WF-1000XM5は、最初こそ慣れない音だったが、徐々に“細部の綿密さ”が良いと感じるようになった。
ローエンド~ミドルレンジのイヤホンを常用している方は、普段聞いている音楽を、一度このイヤホンで聴いてみると良い。きっと「今まで聞こえなかった音が聞こえる」感覚を味わえるだろう。
ノイズキャンセリング
最近のハイエンドイヤホンでは必須機能となった「ノイズキャンセリング」について見ていく。
単純なノイズキャンセリング性能の強さだけで言えば、WF-1000XM5がわずかに優位だが、その特徴はAirPods Pro(第2世代)と全く異なるものだった。
AirPods Pro(第2世代)は、低~中音域をごっそり消してくれるが、高音のノイズキャンセリングはやや弱い。
一方のWF-1000XM5は、全音域で一定程度ノイズをカットできている。特に細かい生活音を非常に良く消せる。例えば、PCのファンやエアコンの運転音は“ほぼ無音”といっても差し支えない具合だ。キーボードの打鍵音は聞こえるものの、AirPods Pro(第2世代)と比べて、より軽減される。
しかしながら、電車の中や繁華街といったある程度煩い環境下においては、全体的に音が残ってしまう。
「高音ノイズだけが残るAirPods Pro(第2世代)」に対し、 「すべての環境音を等しく小さくするWF-1000XM5」といったところだ。
シチュエーション毎に向き不向きを挙げるなら、「外出や移動を快適にするノイキャン」がAirPods Pro(第2世代)で、「自宅やカフェで音楽を楽しむためのノイキャン」はWF-1000XM5だろう。
慣れの部分も大きいと思うが、個人的にはAirPods Pro(第2世代)のノイズキャンセリングが好みだ。
外音取り込み
内蔵マイクで周囲の音を拾い耳に伝える「外音取り込み」機能は、両者ともレベルが高い。
強いて言えば、サーッという音が少なく、いかにも取り込んでいる感が少ないのはAirPods Pro(第2世代)だ。このような“自然さ”に関しては装着感の軽さが起因している可能性もある。また、WF-1000XM5の「耳に何か入れているのに環境音が聞こえてくる」感覚に、少し違和感があった。
どちらも他人との会話は不自由なく行えるので、特に問題にならないだろう。
「外音取り込み」に関しては、引き分けと言える。
装着感
装着感については、AirPods Pro(第2世代)の圧勝だ。
AirPods Pro(第2世代)がシリコン製のイヤーピースを搭載するのに対し、WF-1000XM5はウレタンのような低反発素材となっている。
後者は耳に密着し遮音効果を高めてくれるが、窮屈感や圧迫感は否めない。
耳にすっと入り、付け心地が圧倒的に軽いAirPods Pro(第2世代)は、付けていることさえ忘れるほどだ。
より高い音楽鑑賞体験を追求するWF-1000XM5と、カジュアルかつシームレスさを忘れないAirPods Pro(第2世代)。前述の音質面とともに、コンセプトや設計思想の違いが如実に現れている。
なお、両機とも歩行やランニング中に耳から落ちることは一切ない。
横向きで寝転がりながらの装着は、耳を押し付けてしまうため、どちらも厳しかった。
使い勝手・コントロール
続いては、音量やメディア操作といったハード面の使い勝手を比較する。
共に、接続先のPCやスマホに触れなくてもコントロールできるが、操作方法が異なる。
WF-1000XM5の音量調節が本体の5回タップなのに対し、AirPods Pro(第2世代)は、柄(昔で言ううどん部分)を上下にスワイプする方式となっている。圧倒的に後者の方が便利で、誤操作がほぼ無い。
ノイキャンと外音取り込みの切り替えは、WF-1000XM5が1回タップ、AirPods Pro(第2世代)が長押し。WF-1000XM5の1回タップは、複数回タップの待ち判定が入るため反応が一瞬遅れる感覚がある。AirPods Pro(第2世代)は感圧センサーと触覚フィードバックが非常に気持ち良く、上質な操作感となっている。
WF-1000XM5は、専用アプリで割当を変更できるが、設定の柔軟性は乏しい。
コントロールのしやすさを含む操作体験は、AirPods Pro(第2世代)の勝利と言えるだろう。
接続性
WF-1000XM5はハイレゾ相当のデータ転送が可能なBluetoothコーデック「LDAC」に対応しており、確かに音が良い。
しかしながら、設定によっては時折接続が途切れる現象が発生した。
AndroidのBluetooth設定、または開発者向けオプションから、どの程度の品質を利用するか選択可能だ。すべて最高設定にすると、さすがに音切れが多発する。「BluetoothオーディオLDAC再生品質」を“バランス(可変ビットレート)”にすることで、ある程度問題は解消するようだ。それでもごく稀に接続が一瞬切れることがあった。
音質と接続性のどちらを優先するのか、環境次第で取捨選択が必要であることを認識しておくべきだ。
AirPods Pro(第2世代)は、SBCおよびAACのみ対応であり、音切れが発生したことは一度も無い。
機能・ソフト面
次に、WF-1000XM5について、アプリやOS連携等のソフトウェア面を見ていく。
アプリ「Headphones Connect」
WF-1000XM5には、専用アプリ「Headphones Connect」が用意されている。
こちらで接続や各設定、統計情報を閲覧可能。アプリの出来については標準的だが、AirPods(Apple)のような製品との一体感は無い。
アプリ上のシステム > タッチセンサーの機能を変更より、左右それぞれ本体操作の機能を「再生コントロール」「外音コントロール/Quick Access」「割り当てなし」より選択できる。ただし、タップ回数に応じて割り当てを変更することはできない。例えば、「ダブルタップでノイズキャンセリングの有効/無効」にしたいと思ってもそれは不可能、ということだ。うーん…ここはアップデートで改善してほしいポイント。
マルチポイント接続
WF-1000XM5は2台のデバイスに同時接続する「マルチポイント接続」に対応。
アプリ上からの切り替えや、クライアント側の設定画面から直接繋ぐこともできる。マルチポイント使用時でも、“接続を奪う”ことが可能。以前レビューしたヘッドホン「ATH-HL7BT」ではそれができなかったので、この辺りの設計は大変良く出来ている。
Androidとの連携
OSとの統合という点では、初回起動時にケースを開けた瞬間にポップアップが表示された。
また、アイコンが表示されたり、設定画面が充実している点は、ソニーの企業努力を感じた部分だ。
Google Play開発者サービスを搭載するAndroid端末同士であれば、接続先の自動切り替えも対応。複数台のデバイスを併用している場合でも、使っている端末の音をそのまま再生できる。
言わずと知れた「AirPodsシリーズにおけるApple製品間での自動切り替え」と同等機能が、Android端末で使えるのだ。
ソフトウェア面に関しては、ソニーが非常によく頑張っている、という印象。メインスマホがiPhoneならAirPods Pro(第2世代)、AndroidならWF-1000XM5、という選び方もアリだと思う。
気になった点(WF-1000XM5)
WF-1000XM5を約一週間使用して感じた、気になった点を挙げる。
- 無音時に電子ノイズが聞こえる
- 耳から外した時のノイキャンの挙動ついて
- 回しながら装着する必要がある
- ケースのバッテリー持ちがイマイチ
無音時に電子ノイズが聞こえる
筆者はコンテンツを何も再生せずに、無音の状態でノイズキャンセリングを効かせることがある。その際に、僅かながら高周波の電子音が聞こえてくる。意外に気になるので、耳栓代わりの用途を検討している場合は要注意かも。
耳から外した時のノイキャンの挙動ついて
一時的にイヤホンを耳から外す場合の挙動が、不自然だと思う。
- 耳に付け、ノイキャンオンの状態にする
- 耳からイヤホンを外す
- 外音取り込みモードになる
- 再度耳に装着する
- ノイキャンオンに戻らず、外音取り込みモードのままになる
5.の部分でノイキャンを自動で再有効化して欲しいが、何故か外音取り込みモードのままになってしまう。これは意図した挙動なのだろうか…。
回しながら装着する必要がある
WF-1000XM5の場合、耳に付ける時に回しながらでないと上手くフィットしない。その“ほんの一手間”がAirPods Pro(第2世代)との体験の差となっている気がする。
ケースのバッテリー持ちがイマイチ
WF-1000XM5は、ノイズキャンセリングオンで本体8時間+ケース16時間、計24時間の持続を公称している。実使用時間も同程度だったが、体感としては少々短いと感じた。
AirPods Pro(第2世代)は、ケースのバッテリー残が少なくなると、フタを閉める際に音で知らせてくれる。そのままApple Watchの充電台に置けば良いため、「充電忘れで電池切れ」を体験したことは一度も無い。
やはりここでも、細かな配慮の差からユーザーエクスペリエンスに違いが生まれ、結果として体感的なバッテリーの持続時間にも影響したと考えられる。Apple、さすがです。
ちなみに、AirPods Pro(第2世代)は、本体5時間+ケース19時間の計24時間らしい。やはり“ケースの”持続時間は長い。そもそも筆者は連続5時間視聴することが稀なのだが。
総合的な満足度は「AirPods Pro」の勝ち!
結論を申し上げると、総合的な満足度はAirPods Pro(第2世代)が上、というのが筆者の感想だ。
WF-1000XM5 | AirPods Pro (第2世代) | |
---|---|---|
音質 | ◎ | ○ |
ノイキャン | ◎ | ◎ |
外音取り込み | ◎ | ◎ |
装着感 | △ | ◎ |
使い勝手・ コントロール | △ | ◎ |
接続性 | △ | ◎ |
機能・ ソフト面 | ○ | ○ |
総合評価 | 14点 | 18点 |
WF-1000XM5の音質の良さは圧倒的であるが、足回りの操作性やソフト面の体験まで含めるとAirPods Pro(第2世代)のメリットが上回ってしまう。
ただし、コンセプトが異なり、使うべきシチュエーションが全く違うのも事実だ。
WF-1000XM5がとことん音に拘った「純粋に音を楽しむためのイヤホン」であるとするならば、AirPods Pro(第2世代)は「日常に溶け込み、人体の一部として使えるデバイス」なのだ。
だから、リラックスして音楽を聴きたい時は前者が望ましいし、生活の中で気軽に情報を得たい時は後者を使えば良い。個人的には“日常使用型”のデバイスが生活スタイルに合っている、というわけだ。
筆者は、WF-1000XM5の購入は“オーディオ沼”への第一歩だと思う。高尚な音楽に興味は無いが、Amazon Music Unlimitedに加入した。良い音を聴けることで新たな世界との出会いも期待できるだろう。
コメント