昨今、異常な高騰が続くグラフィックボード。その一因として暗号資産(仮想通貨)のGPUマイニングの興隆が挙げられる。
そんな中、NVIDIAはマイニング性能(ハッシュレート)に制限を加えたGPUを発表。各メーカーも同チップを搭載したグラフィックボードの販売を開始した。今後は主に、この「Lite Hash Rate ”LHR”版」製品が流通することとなる。
本日は、そんな”LHR版”グラフィックボードでマイニングはできるのか?電気代の元は取れるのか?実際に検証した。
制限は解除できるのか?
2022/5/8追記 制限を完全回避する「NiceHash QuickMiner」が登場!
マイニング制限を「100%解除」する「NiceHash QuickMiner v0.5.4.0 RC」がリリースされた。詳細は以下の記事で解説している。
Source:NiceHash Blog,GitHub
2021/8/16追記 制限を50%→70%に緩和する「NBMiner 39.0」が登場
LHR版グラフィックボードで、Ethereumマイニングのハッシュレートを本来の70%程度に引き上げる「NBMiner 39.0」がリリースされた。ソフトウェア調整により、「Ethash」アルゴリズムにおいて従来の制限値の約50%から大きく性能が向上した。
なお、今回のアップデートはNVIDIAのリミッターを解除するものではない。検出される閾値のギリギリで動作させることで実現しているとみられ、68%での使用が推奨されている。それ以上ではリミッターが発動し、ハッシュレートが大幅に減少する可能性が高い。
Source:NBMiner-GitHub via:VideoCardz
2022/1/7追記
新たなLHR対策とも言える「デュアルマイニング」も出始めている。ETHと他コインを同時採掘し、GPUパワーを最大限活用するというものだ。詳細については、別の記事に投稿した。
Source:NBMiner-GitHub via:VideoCardz
結論から申し上げると、2021年8月現在、新たに製造された製品でハッシュレート制限は回避できない。
以前NVIDIAが誤って公開してしまった、デベロッパー用ドライバーは使用不可だ。
リビジョンを変更することにより、ハードウェア自体を認識させないようにしている、と推測される。
なんだ…できないのかよ、とブラウザバックしようとしたそこの貴方。制限解除はできなくても、マイニング自体は可能。ここからは、性能や効率について検証していくので、是非見てほしい。
実行環境
マイニングソフト
使用するソフト:NiceHash Miner
バージョン:3.0.6.5
パワーモードは、TDPを100%に設定する「High Power Mode」で実行。
いわゆる「マイニングプール」であり、提供した計算能力に応じて、報酬としてビットコインが支払われる。
グラフィックボード
GeForce RTX 3060搭載
GHIGABYTE GAMING OC 12G (rev. 2.0)
Limited Hash Rate version(Lite Hash Rate)
コアクロック:1837 MHz
ビデオメモリ:12GB
メモリ規格:GDDR6
メモリバス幅:192 bit
抜粋:GIGABYTE – 製品ページ
NVIDIA Studio Driver バージョン:471.41
購入価格は74,800円。ミドルクラスのグラフィックボードとなる。
その他のPCスペック
CPU | Intel Core i7-11700 |
CPUクーラー | H150i ELITE CAPELLIX |
マザーボード | H570 Steel Legend |
メモリ | 32GB VENGEANCE RGB PRO 3200MHz |
SSD | 1TB Samsung 980 PRO |
SSD2 | 2TB Samsung 870 EVO |
電源 | 650W CX650F RGB |
2021年6月に製作した自作PC。パーツの詳細や組み立てに興味がある方は以下のリンクから記事を確認できる。
検証方法
一定時間マイニングを行い、ウォレット残高の増加金額から、消費した電気代を控除して算出。また、元々所持していたビットコインの検証中の価格変動分を加減。
計算方法等の詳細は後述する。
稼働中の様子
ソフトを起動し、スタートボタンを押下。簡単に開始できる。
現在の収益性(Current Profitability)、未払い残高(Unpaid Balance)が表示される。
実行中はDOS窓が出現し、ハッシュレートや採掘難易度等が表示される。
GPU温度は10分間の稼働で67℃まで上昇。室温30℃では70℃前後で推移した。
消費電力は170W前後で、ハッシュレートは20MH/s前後だ。アルゴリズムにもよるが、通常40MH/s程度出るとされ、約半分に制限されていることが分かる。特定のメモリアクセスパターンを検出すると、制限モードに突入するらしい。
<2021年8月7日12:23追記>
→コメントより、画像①のアルゴリズム「KAWPOW」は制限が掛かっていないとのご指摘をいただきました。制限対象は「DaggerHashimoto」=Ethereumとなるようです。ta様ありがとうございました。
検証結果
それぞれ別日の3回に渡って検証を行った。
検証①
利益 … 37円
経過時間 … 9.1時間
時間あたり利益 … 4.1円
稼いだ金額 … 112円
かかった電気代 … 49円
検証②
利益 … 30円
経過時間 … 9.25時間
時間あたり利益 … 3.3円
稼いだ金額 … 61円
かかった電気代 … 31円
検証③
利益 … 70円
経過時間 … 14.4時間
時間あたり利益 … 4.9円
稼いだ金額 … 150円
かかった電気代 … 78円
検証方法の詳細
ここからは、計測方法の詳細について説明する。
報酬獲得量の計算
リグを1台のみ繋いでいるので、ウォレット残高+未払い分の合計を、開始時と終了時に記録。その純増額を報酬獲得量とした。
なお、NiceHashでは0.00001BTC以上でウォレットへの支払いが行われるが、その際に掛かる数%の手数料は考慮外としている。
電気代の計測
電気代の計測には、以下のワットモニターを使用した。
単価は、1kWhにつき21円に設定。基本料金は含まれない他、地域や季節、使用量によっても変動するので注意が必要。
積算電力料金を記録する機能があり、マイニング開始時と終了時の差額で、料金を算出した。
なお、システム全体の消費電力電力に加え、他の電気製品の使用が多少含まれるため、参考値となる。
価格変動分の加減
開始前にウォレットにあったビットコインの価格変動分については、計算の最終段階で加減を行っている。
なお、計測途中でウォレットに支払われた分の価格変動は考慮していない。
データ詳細
各検証の詳細データは以下の通りである。適宜、数値の切り捨てを行っている。
検証→ | 単位 | ① | ② | ③ |
---|---|---|---|---|
開始時Total Assets(a) | 円 | 794 | 1185 | 2545 |
開始時Unpaid(b) | 円 | 15 | 14 | 3 |
開始時資産合計(C=a+b) | 円 | 809 | 1199 | 2548 |
終了時Total Assets(d) | 円 | 910 | 1224 | 2679 |
終了時Unpaid(e) | 円 | 11 | 36 | 19 |
終了時資産合計(F=d+e) | 円 | 921 | 1260 | 2698 |
増加額(G=F-C) | 円 | 112 | 61 | 150 |
開始時積算電力料金(h) | 円 | 5966 | 6445 | 7707 |
終了時積算電力料金(i) | 円 | 6015 | 6476 | 7785 |
必要電気代(J=i-h) | 円 | 49 | 31 | 78 |
利益(K=G-J) | 円 | 63 | 30 | 72 |
開始時BTC価格(l) | BTC/円 | 3708262 | 3723685 | 4538119 |
終了時BTC価格(m) | BTC/円 | 3830326 | 3722789 | 4540961 |
開始時所持BTC(N) | BTC | 0.000213 | 0.000318 | 0.000561 |
価格変動分(O=(m-l)*N) | 円 | 26 | 0 | 2 |
純利益(P=K-O) | 円 | 37 | 30 | 70 |
経過時間(q) | Hour | 9.1 | 9.25 | 14.4 |
時間あたり利益(=P/q) | 円/h | 4.1 | 3.3 | 4.9 |
計算方法の正確性にも疑問は残るが、おおよその目安にはなるだろう。
結果の解釈
今回の検証では、利益が出ることが分かった。
しかしながら、ワットパフォーマンスは約0.1MH/Wsと非常に悪い。
単純に電気代を控除した値では、一日あたり77~166円の利益が見込まれる。仮に、24時間稼働させ続けた場合、グラフィックボード本体代金の回収に1年半~2年半かかる計算になる。
相場の変動や採掘難易度(Difficulty)、その他の要因によっても収益性は大きく変わるため、マイニング目的で”LHR版”グラフィックボードを購入するのは推奨し難いと言える。
また、マイニングはグラフィックボード本体や電源ユニットにダメージを与え、パフォーマンスの低下や寿命を縮める原因にもなる。他PCパーツ代を含めると赤字になる場合もあるだろう。
結局は、仮想通貨の価格変動にかなり大きく左右されてしまう気がする…
まとめ
本記事ではハッシュレート制限モデルのグラフィックボードで、マイニング性能を検証した。
収益性は、使用するGPUやその他の要因によって大きく変動すると考えられるため、あくまで参考として見てほしい。
マイニング需要の高まりにより、グラフィックボードが、本来の用途であるゲーム目的で使用するユーザーに行き渡らない状況が続いている。検証結果からも、マイニング目的で”LHR版”を購入することは得策ではないと考えられ、ゲーマーや科学技術計算を行う人々の手に渡ることを願うばかりだ。
暗号資産(仮想通貨)に関連する、ブロックチェーンやProof of Workといった技術は非常に興味深い。
グラフィックボードをお持ちの方は、筆者のように「テクノロジーの体験」として、マイニングを試してみては如何だろうか。
履歴
2021年8月6日 初出
2021年8月7日 追記
コメント
RVNコインのkawpow 20mhsは制限かかってないです。3070で30mhs、3080で45mhs、3080tiや3090でも50mhsです。
制限あるのはDaggerhashimotoで、本来47mhsです。ご参考までに。
コメントありがとうございます。本文に引用し、追記させていただきます。